https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58905160Y2A300C2EN8000
ロシアのウクライナ侵攻。仏経済思想家ジャック・アタリ氏は6年前、2030年までの未来を予測した著作で世界に迫る危機の一つとして、その可能性を指摘していた。
「潜在的な敵に囲まれるロシアは、孤立的状態を打ち破り、包囲網を突破しようとする」。ロシアはまずウクライナ東部の独立派の拠点地帯を占領する、西側はウクライナを支援し北大西洋条約機構(NATO)への加盟を検討する――。アタリ氏のシナリオが1ページずつめくられていくかのようだ。次にロシアはカリーニングラードの飛び地解消を目指す可能性があり、さらにベラルーシの緊張、その先にポーランドやトルコとの摩擦が警戒される。
ウクライナ侵攻は「偉大なロシア」復活を狙うプーチン大統領の野望だ。ただ背景にある別の文脈をアタリ氏は指摘する。ロシア自身が直面する少子化と地球温暖化だ。
ロシアの少子高齢化は民族構成に変化をもたらす。イスラム系の出生率が高く、今世紀中ごろには3人に1人がイスラム系になるとの試算もある。政権を支えるロシア系の比率が下がっていくのだ。
かたや極東地域では中国からの移民が流れ込む。温暖化で凍土シベリアが沃地に変わるというビジネス機会をねらっているからだ。極東で中国系がロシア系を抜く時代も遠くないとされる。民族的にも包囲されるロシア系。その危機感もまた、ロシア民族再集結という野心へプーチン氏を駆り立てる理由となる。
追い詰められたネズミが自分を襲ってきた――。プーチン氏の心理を読もうと、自ら語ったとされる幼少期の逸話が海外メディアで引用されている。ネズミはウクライナか、プーチン氏自身か。
今後の怖さは地政学的にも経済的にも危機がシンクロしてしまう可能性だ。東・南シナ海、中東、アフリカなど紛争は至る所にある。かたやマネーは膨張を続けてきた。中国の不動産バブル、各国で膨れる公的債務、米国で拡大した「影の銀行」。これらが逆回転を始めれば世界経済は急速に不確実性を高める。
国際商品の高騰と株価の急落が連鎖する今は、こうした懸念を市場が読み込み始めたといえる。世界に危機の火種が潜む。国際社会はウクライナ解体を止め、国際秩序を保つことができるか。極めて重要な岐路にある。
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