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ロンドンの不動産はこれまで、不正に得たものを含む資金を寝かせておく簡単かつ安全で目立たない場所として活用されてきた。だがある富裕層向け仲介業者は、ロシア軍のウクライナ侵攻を受けた制裁措置により、この数十年来の慣習に幕が下ろされると指摘する。
制裁対象は増えそう
英政府による対ロ制裁の対象は今のところ、ロシアのプーチン大統領に直接つながりがある少数のオリガルヒにとどまるが、対象となる個人は増える見通しだ。
ロンドンの不動産市場で働く複数の仲介業者や弁護士によると、英政府の制裁対象になる恐れやロシア人富裕層への反発から、多くのロシア人がすでに売却を検討している。
なかでも最も大きな注目を集めているのはロマン・アブラモビッチ氏だ。同氏は制裁の対象ではないが、2日にサッカーのイングランド・プレミアリーグのチェルシーを売却すると認めた。さらに2人の関係者によると、ロンドンの一等地ケンジントン・パレス・ガーデンズに所有する1億ポンド以上の豪邸を売りに出している。アブラモビッチ氏は自宅の売却についてコメントを拒んだ。
もっとも、今の風向きではロシアの超富裕層は物件をなかなか売却できないだろう。ウクライナ侵攻を受けて、仲介業者や弁護士はロシア人富豪との取引に慎重になりつつあるからだ。
英不動産仲介会社プロパティー・ビジョンの買い付け代理人、ローリー・スカリスブリック氏は「資金の出どころが悪かったり、どこか怪しかったりする場合には、代理人になってくれる仲介業者や弁護士を探すのに苦労するだろう」と述べた。「制裁対象のオリガルヒは売却代理人が見つからないだろう」
国際非政府組織(NGO)「トランスペアレンシー・インターナショナル」の分析によると、プーチン政権とのつながりや汚職の疑いがあるロシア人が購入している英国の不動産は少なくとも15億ポンド相当に上る。大半はロンドンの物件だ。
ラングトン氏は「こうしたオリガルヒの邸宅はほこりをかぶったまま放置されることになると思う」との見方を示した。「こうした資産は凍結されているので、無価値とみなされるだろう」
登記が増えていたロシア国内の連絡先
ロシア人富豪はかつてロンドンの最高級市場のけん引役で、ベルグラビアやナイツブリッジ、ハイゲートなどの高級住宅街や、近郊の町サリーにあるゲートで囲まれた豪邸に巨額の資金を投じてきた。
英NPO法人「センター・フォー・パブリックデータ(CFPD)」の分析によると、イングランドとウェールズの不動産の権利書のうち、連絡先がロシア国内になっている個人の名で登記されているものは2010年には100件に満たなかったが、16年には710件に増えた。
もっとも、ロシア人の不動産購入ペースはここ数年減速しており、ロンドンの最高級物件の取引の背後には香港や中国、中東の買い手がいるケースが増えている。
英不動産大手ナイト・フランクによると、21年の外国人によるロンドンの不動産投資額は30億ドル(約3400億円)と世界の都市でトップだった。
CFPDによると、大半は英王室属領のジャージー島やマン島、英領バージン諸島で登記されている企業を通じて購入されている。
複数の英閣僚が厳しい姿勢を示したことで、こうした状況は変わる可能性があるとラングトン氏は話す。「今後は資金源を徹底調査せずに海外の買い手の代理人を喜んで引き受ける弁護士はいなくなるだろう。こうした日々は終わった」

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