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〈Nextストーリー Amazon Effect2.0〉(上) 米高賃金、震源はアマゾン 雇用110万人 地元勢と人材争奪 時給2000円、歓迎と不安と

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58688980R00C22A3TB1000/

 

アマゾン・ドット・コムが既存の小売業を追い込む「アマゾン・エフェクト」が話題になっておよそ5年。同社が小売業の枠に収まりきらない異形の成長を遂げるなか、その影響も意外な広がりをみせている。いち早くアマゾンの洗礼を浴びた米国で、光と影が交錯する「エフェクト2.0」の現場を追った。

 

スミスさんは地元の建材メーカー、オールドキャッスルで人事担当として働く。採用に困ることはほとんどなかったが、年初からは目標に達しないことが続いていた。15ドル(約1720円)だった時給を2カ月前に17ドルへと引き上げた。それでも効果は乏しい。

新型コロナウイルスの影響が薄れ、人手が不足しているためだけではない。状況を複雑にしているのがアマゾンだ。

厳しい視線も

米国の民間雇用の約150分の1に達したアマゾンには厳しい視線が注がれる。「利益を従業員や社会に還元していない」「労働環境が劣悪」――。米国の若者の「左傾化」と軌を一にしてこうした批判が高まり、18年秋には最低賃金を一気に時給15ドルに引き上げた。連邦政府の定める最低賃金(7.25ドル)の2倍以上の水準で、地域によっては5割程度の昇給になった。

カリフォルニア大学バークレー校などの研究グループによると、アマゾンが18年に10%昇給した地域は、地域全体の賃金が2.6%上昇した。昇給幅が大きかったことなどにより、影響はほかの小売業の事例を上回っている。進出により各地で引き起こした地域全体の賃金上昇は「アマゾン・エフェクト2.0」のひとつといえる。

待遇改善に期待

「あちこちにこういう看板があるんですよ」。自動車部品関連の企業でゼネラルマネジャーとして働くキャル・ロビンさんが指さした。視線の先には「入社時ボーナス2000ドル」と記した金属関連の企業の求人広告が掲げてあった。

アマゾンが21年に進出を発表すると、一斉に賃上げが始まった。ロビンさんの勤務先もそれまで3年ほどは時給12ドルだったが、15ドルに引き上げた。アマゾンの拠点は22年10月に稼働する予定だが、「それまで待っていたら手遅れになる」。夏は1週間働くたびに50ドルの賞与を支給した。

「アマゾンは社員の定着率が低いと聞く。コミュニティーはどうなってしまうのか」。高賃金の企業に人材が流れ、賃金が低い分野は淘汰やイノベーションが起きる新陳代謝は「自然の摂理」であるものの、ロビンさんたちの目には中間層を支えてきた良質な仕事が痩せ細ると映る。

アマゾンも労働環境の改善に取り組み、社員が教育を受けてさらに賃金が高い仕事に就くのを支援するといった動きを強める。それでも規模ゆえに時間がかかり、アマゾンの待遇改善が全体最適につながるかは不透明だ。矛盾と摩擦を抱えながらも成長を続け、最低賃金は時給18ドル(約2070円)を上回った。