· 

相続不動産、評価法争う 「路線価否定」の課税巡り最高裁判断へ マンション節税に影響

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80450840V20C22A2TCJ000

 

マンションの相続を巡る税務訴訟で、最高裁が3月15日に弁論を開く。高裁までの相続人側敗訴の判決を見直す可能性がある。専門家は「どの程度の節税なら許されるのか基準の提示を期待したい」と話す。

 

「最高裁の判断や、その後に国税当局がルール改正するかなどに注目している」。ある金融機関の富裕層ビジネス担当者は話す。

今回の事案は、父親から相続した不動産の評価を巡るものだ。相続人側と国税当局とで評価手法や額が大きく異なり対立している。

一、二審判決によると、原告の相続人は東京都と神奈川県のマンション計2棟を2012年に相続。路線価に基づいて約3億3000万円と評価し、銀行からの借り入れもあったため相続税額をゼロとした。一方、相続の数年前に購入した際の価格は約13億8700万円。国税当局の不動産鑑定の評価額は約12億7300万円だった。

国税当局はこうした価格差などを踏まえ「路線価による評価は適当ではない」と判断。不動産鑑定の評価額が時価にあたるとして、約3億円を追徴課税した。

実勢と価格差

相続税や贈与税の算定には、通常は路線価が使われる。税法は土地や家などの相続財産は「時価」で評価すると定めるが、何を時価とするかは難しい。そのため国税庁が毎年、主要道路に面する土地について路線価を発表し、算定基準としている。路線価は土地取引の目安となる公示地価の約8割とされ、実勢価格より低いのが一般的だ。

この実勢価格と路線価の差を利用した節税は広く知られる。相続や不動産に詳しいフジ総合グループの藤宮浩代表(不動産鑑定士)は「都心部の賃貸マンションなどで実勢価格が路線価による評価の3、4倍になることはざら。タワーマンションの場合、6倍になることもある」と話す。現金より不動産で相続した方が税金が安くなりがちで、節税目的で不動産を購入する富裕層も多い。「タワマン節税」「マンション節税」などとも呼ばれる。

だが今回のケースでは、国税当局は「伝家の宝刀」とも呼ばれるルールを使って追徴課税に踏み切った。国税庁長官の指示で財産の評価を見直すことができる通達の規定(財産評価基本通達の総則6項)だ。

相続人側が反発して訴訟に発展したが、19年8月の一審・東京地裁判決は「特別な事情がある場合には路線価以外の合理的な方法で評価されることが許される」などとして、6項を適用した国税当局による課税処分は適法だと判断した。20年6月の二審・東京高裁判決も判断を維持した。

相続人側が劣勢のまま争いの舞台は最高裁に移った。すると最高裁は21年12月、22年3月に弁論を開くことを決めた。国税当局には衝撃が走った。最高裁が弁論を開くのは、高裁判決を見直す時が多いからだ。「本当にあの判決を見直すのか」。ある国税職員は役所の廊下で絶句した。

3つのシナリオ

今後の展開は主に3つの流れが想定される。シナリオ(1)は最高裁が高裁判決を破棄するなどし、自ら判決を下すパターンだ。相続人側で「国税の処分が違法だ」との意見書を書いた平川雄士弁護士は、この場合は「国税当局による6項の適用を認めず(相続人の主張通り)路線価に基づいた評価で問題ない、との判断になるだろう」と予測する。

シナリオ(2)は、高裁判決を破棄し高裁に審理を差し戻すというパターンだ。ある裁判官は「この場合なら通達の規定を適用できる範囲や考慮すべき事項などについて、最高裁が法的な判断を示すだろう」とみる。最高裁が示した枠組みを踏まえて高裁が改めて通達の適用の可否を審理することになる。

平川弁護士も「近隣の類似物件でも大きな価格差があったかや、不動産鑑定評価以外に路線価を否定できる特別の事情があったのかなどが審理される可能性がある」とみる。

シナリオ(3)は、上告の棄却だ。国税当局による追徴課税を認めた判決が確定する。近年は最高裁が弁論を開いても高裁の結論を変えない事例もみられるため、この流れになる可能性もある。

実務への影響はどうか。シナリオ(1)なら、路線価を基本として税額を算定する今までの実務が大きく変わることはなさそうだ。ただ相続税に詳しい松岡章夫税理士は「国税当局が通達改正などルール変更をすることも考えられる」とみている。

シナリオ(2)の場合は、高裁の判決が出るまでは影響がみえづらい。シナリオ(3)も棄却理由によって影響が異なるが、この場合は最高裁が不動産節税について、明確な基準を示す可能性は低いとみられる。

松岡税理士は「司法判断の行方や、その後の国税当局の対応は相続税だけでなく、不動産取引などにも広く影響を与える可能性がある」と指摘する。「どんな判断が出るにせよ、どの程度なら節税が許されるのかなど、納税者側に分かりやすい基準が示されることを期待したい」と話している。