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対ロ金融制裁の逆噴射 バブル襲う権威主義国家の野望

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL00001_Y2A220C2000000

 

かくして人類は軍事と金融の2つの緊張を同時に強いられ、対ロ金融制裁は金融市場の混乱を通じて西側に逆噴射する可能性が高まる。経験のないハイブリッド危機だ。

 

ロシア保有の外貨、先進国の短期市場をかく乱か

米欧はロシアの大手銀行などを国際決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除することを決めたが、全行を排除対象とはしない。「SWIFTからの排除だけでロシアの銀行が欧米の金融機関と取引ができなくなるわけではない」として、実効性に懐疑的な見方がある。

 

戦争は物価高と財政支援のための金融緩和、すなわち名目金利の低下を同時に促し、インフレ調整後の金利(実質金利)を急低下させる。実質金利が下がると預金や現金を保有していてもモノの値上がりに割り負けするので株式にお金が流れる。「銃声が鳴ったら買え」といわれる理由だ。だが、19世紀後半の普仏戦争や1973年の第4次中東戦争はインフレと同時に不況を引き起こし、株式市場に大きなダメージを与えた。

 

通貨や株価の暴落といった金融ショックが本当に怖いのは、ロシアよりもむしろレバレッジ(借り入れ)が膨らんだ肥満体質の先進国ではないか。国際決済銀行(BIS)によれば2021年6月時点の非金融部門の債務残高(ローンと債券の合計)は国内総生産(GDP)対比でドイツが205%、米国が286%、英国が290%、イタリアが292%、日本が417%に達する。一方、ロシアは125%にすぎない。国際通貨基金(IMF)によれば、過去20年間の経常収支の累計はロシアが1兆2900億ドルの黒字に対し、英国は1兆8600億ドルの赤字、米国は10兆5000億ドルの赤字だ。

 

FRBを縛る「戦火」

不動産に不良債権の火種を抱える中国は西側のバブル崩壊に神経をとがらせ、中国本土への波及の阻止に血眼になっている。しかし、それに成功すれば自らの金融システムの安定性を世界にアピールする絶好の機会ともなる。人民元の対ドル相場は3年10カ月ぶりの高値圏にある。

 

株価が下がっても、インフレを読み誤ったFRBのパウエル議長には切れるカードはあまり残されていない。20年3月からFRBの総資産は1.9倍になり、米先物市場に上場する原油の未決済残高の想定元本は3.9倍に膨らんだ。

 

人類は何度も投機に沸き、そして破綻を繰り返してきたが、いま直面する困難は、権威主義国家の思惑に資本主義がひざまずく21世紀型危機といえるだろう。