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海外資産に税の網幅広く 高額保有、所得問わず報告

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOMH17C8S0X10C22A2000000

 

財産報告、対象者拡大へ

2022年度税制改正で政府が打ち出した「財産債務調書」制度では毎年12月末に所得2000万円超で国内外の資産が計3億円以上あるか、国外転出時に有価証券1億円以上を保有する場合に提出する義務がある。23年分から現在の対象者に加えて、総資産が10億円以上なら所得にかかわらず調書の提出を求める。所得要件をなくしたことで対象者は従来に比べ増える可能性が大きい。

 

こうした富裕層は国内だけでなく、国外に多くの資産を保有する人が多い。海外なら日本の税務当局の目は行き届かないだろうとの意識が強いためだ。しかし「現在は海外に財産があるほうが逆に関心を集めやすい」と元仙台国税局長で税理士の川田剛氏は話す。

 

海外資産の申告漏れに威力を発揮し始めているのが、各国・地域税務当局が非居住者の金融口座情報を交換する制度。タックスヘイブン(租税回避地)を含む約100カ国・地域が参加し、預金や有価証券の残高、利子・配当の年間受取額、マイナンバーといった情報を互いに提供する。経済協力開発機構(OECD)が策定したCRS(共通報告基準)に基づくためCRS情報とも呼ばれ、18年から本格化した。

 

海外口座情報、3倍超に

日本の国税庁が入手した口座情報は21年12月末時点で法人も含めて約247万件。初めて情報交換をした19年6月末の約74万件から約3.3倍に増えた。税務当局は海外口座の情報を基に申告漏れがないか調べたり、財産債務調書や、海外財産に特化した「国外財産調書」と照合し未提出であれば報告を求めたりする。

 

国外財産調書は5000万円超の海外資産がある人が対象で、20年末の提出件数は1万1331件と7年連続で増加した。毎年12月末時点の海外資産の種類、数量、金額などを報告する義務がある。

 

海外に多額の資金を送金しているケースで当局が疑うのが「申告漏れの贈与があるのでは」という点。例えば子や孫が海外に留学していると学費や生活費などで1回100万円を超える送金をする場合がある。多額の援助でも教育費や生活費に充てるなら贈与税はかからないが、税務署が確認のため質問の文書である「お尋ね」を送付する例は少なくない。この場合は「実際にかかった学費の明細などを示せば疑いは晴れる」と税理士の岡田俊明氏は話す。

海外資産、申告漏れ多く

 

当局が海外資産・所得の把握を重視するのは、申告漏れが多く追徴課税をしやすいという面もある。所得税の申告漏れ1件当たりの金額を21年6月までの1年間でみると海外関連は2239万円と全体の1257万円に比べ約80%多い。海外資産の相続税の申告漏れ金額も3579万円と全体の3496万円を上回る。「調査効率が高いため、今後も海外資産の把握に力を入れるだろう」(税理士の藤曲武美氏)との見方は多い。

 

相続・贈与税、課税強化議論も

現在は例えば親子の間で海外財産を相続したり贈与したりする場合、親子がともに10年を超えて海外に住んでいれば課税対象から外れる。税理士など専門家や富裕層の間で「10年縛り」とも呼ばれる仕組みだ。この期間を10年超から延ばすだけでなく「最終的には何年住んでも日本国籍を有する人は課税対象となることも考えられる」と川田氏は話す。

CRS情報でも注意を払いたい。日本の税務当局が入手した情報を地域別にみるとアジア・大洋州が約70%を占める。北米・中南米は10%に満たない。米国が参加していないためだ。米国は外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)に基づき、外国金融機関から米国人の口座情報を独自に集めている。このため富裕層の間では「米国に資産を移転すれば、日本の当局に情報を把握されにくい」との見方まである。ただ悪質な場合など日本の当局が必要と判断すれば米国に情報提供を要請できる仕組みとなっている。楽観するのは禁物だろう。