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仮想空間の「もう一人の私」

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80273340Y2A210C2TCT000/

 

あなたの発言や書いたモノを人工知能に読み込ませ、思考の癖や関心の所在などの「あなたらしさ=本人性」を抽出。それをアバターに学習させ、会議や商談の場に代理として送り込む。

 

「メディアは身体の拡張である」と述べたのはカナダの文明評論家、マーシャル・マクルーハンだが、この言葉はインターネットやそれに続く「メタバース」の時代を迎えてますますリアルだ。人の体は時空を超えて変幻自在に広がり、それは感覚の変容をもたらすだろう。

 

米マイクロソフトのサティア・ナデラ会長はメタバースを「リアルの世界とコンピューティングの世界の相互乗り入れ」と定義する。離れた場所からアクセスしながら、みんなと同じ部屋に集まりわいわい騒ぐ没入感。カメラの視点に縛られることなく、自分が観察対象のすぐそばにいて、前後左右からぐるりと眺める臨場感――。こうした「新感覚」は夢物語ではない。

 

2021年夏に東京都港区のソフトバンク本社と大阪市内の歯科クリニックなどを高速低遅延回線で結び、ひとつの実験が行われた。

東京にいるベテラン歯科医の宇野沢元春氏と大阪の複数の若手医師が、VR(仮想現実)ゴーグルを通して患者の顎や歯並びの3次元モデル画像を共有し、神経や血管の場所や、歯茎のどの部分を切開すれば患者のダメージが少ないかを入念に確認。そのうえで20代の女性医師が宇野沢氏の助言を仰ぎながら、初めてのインプラント手術をミスなくやり終えたのだ。

忘れてならないのは、これら一連の新技術はディープフェイクなどにも利用されかねない負の側面を併せもつことだ。マイナスを最小化し、プラスの価値を最大限引き出す。技術を賢く使う知恵と覚悟が問われている。