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ロレックスに走る人びと(下)冒険・スポーツ、広告に 沈黙と雄弁の経営戦略

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79202510T10C22A1TB1000/

 

記者(25)も日本ロレックス(東京・千代田)や正規販売店の運営企業に取材を申し込んだが、すべて断られた。

 

シェアは25%に

経営実態も非公表だが、米モルガン・スタンレーの調査によると売上高は2020年に約44億スイスフラン(約5500億円)で、スイスの時計産業に占めるシェアは25%に達する。

 

「沈黙のロレックス」はいかにして巨人になったのか。

 

1905年に創業したロレックスは、スイスの時計産業界では後発だ。

 

26年に防水性を備えた腕時計を開発。翌年、これを着用した若い英国人女性が英仏間にあるイギリス海峡を泳いで渡る。

 

ロレックスは英国紙の一面に彼女の偉業を伝える全面広告を出し、同時に10時間以上も海水に浸りながら動き続けた時計の性能をアピールした。

 

数々の人気モデルの広告戦略も、この延長線上にある。

 

53年にエベレストに初登頂した登山隊にも腕時計を提供し「エクスプローラー」発売につなげた。

 

「コスモグラフ デイトナ」は米国の自動車レース場の名前を冠し、92年にはここで開かれる世界三大耐久レースのひとつを「ロレックスデイトナ 24時間耐久レース」と改称している。

 

ブランドイメージを巧みに打ち出す一方、経営陣は表に出ず、SNS(交流サイト)などでの情報発信も少ない。

 

中野さんは「情報過多の時代だからこそ発信が少ないところに希少価値があると思います。

 

ファンのなかで想像を巡らすオタクの世界観がある」とみる。

 

取材対応に衝撃

2021年9月、米国のサイトでロレックスを取り上げた記事が公開された。

 

人気過熱や品薄、実勢価格の高騰などに触れる内容だ。

 

「我々の製品が不足しているのは戦略によるものではありません。

現在の生産体制では需要を完全に満たすことはできず、品質への妥協は許されないので必要な時間をかけています」。

品薄や実勢価格の高騰は同社が操作した結果ではない、という主張だ。

12月25日、クリスマスに都内の正規販売店に行くと10点ほどしか商品が並べられていなかった。

比較的入手しやすかったはずのモデルでさえも品薄だという。

物寂しいショーケースには、これまでになかった注意書きが置かれていた。

「過去の購入履歴から転売目的である疑いが生じた場合は販売をお断りさせていただくことがございます」。

店員に聞くと「少しでも多くの人への購入機会をつくるため」だという。

21年に人気モデルを購入した50代の男性によると、購入時には写真付きの身分証明書の提示が求められ、同じモデルは5年間購入できないことと、転売の禁止が告げられたという。

それを店頭で明文化したのも、沈黙を破って米メディアにコメントを寄せたのも、危機感の表れだろう。

希望小売価格とかけ離れた実勢価格の高騰を、時計業界の関係者は口をそろえて「異常」「バブル」だと指摘した。

供給量が増えない限りギャップが埋まることはないという見方も一致する。

年の瀬、時計店で中古のデイトナを眺めていた中年男性はつぶやいた。

「僕にはもう手が届かないですよ。若いときはもっと安かったのに。早く買っとけばよかったな」