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国税、富裕層に「宝刀」多用 財産価値の再評価9件判明

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG2011P0Q1A720C2000000

 

再評価の根拠規定は「伝家の宝刀」と呼ばれているだけに税務の専門家は「適用件数が予想外に多い」と驚く。

 

国税庁は相続時の財産評価のあり方を「財産評価基本通達」で示し、不動産であれば公表されている路線価などを算定基準としている。

ただ、多種多様な資産を画一的な方法で評価するため、非上場株式のような取引相場のない資産の評価は実態と乖離(かいり)する場合もある。

このため通達は例外規定も設け、6項で「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とした。

保有資産の評価額を極端に減らした申告などを対象に、国税当局による財産価格の再評価を可能にする規定だ。

富裕層の相続や贈与を巡る租税回避が横行したバブル期以降、その対抗手段として度々行使されてきた。

日本経済新聞は11月、通達6項に基づく国税庁長官の指示について、文書保存期間の2011年以降を対象に情報公開請求した。

11月11日までの指示は計9件。11~15年は1件だけだが、16年以降は8件に上った。

開示文書は具体的な事案を明らかにしていないが、関係者の話によると、2月に元HOYA社長の遺族による相続財産の申告に適用した。

遺族は非上場の資産管理会社の株価を通達の基準に従い、近似業種の上場企業株価を基に算出したが、国税当局は管理会社の保有するHOYA株の価値が未反映と判断。

再評価の上で90億円の申告漏れを指摘した。

このほかにも18年に教育関連の中央出版(名古屋市)創業家の申告、16年にはキーエンス創業家の申告に適用。

いずれも贈与や相続で取得した株式の評価額を過少だとして否認した。

計9件のうち一部は国税不服審判所で争われている。

東京地裁の19年判決によると、故人が節税目的で金融機関から融資を受けて購入した不動産について、相続人が路線価に基づき評価額を算出して申告したが、国税当局は不動産鑑定による評価額の2割強にとどまっているとして否認した。

相続人は課税処分の取り消しを求めて訴えたが、地裁は「路線価以外の方法で評価することが許される」と主張を退け、相続人側は二審も敗訴している。

銀行融資で不動産を取得する節税策は一般的で、富裕層が広く活用する。

国税側は一連の審理でも、納税者側が基準に従い算出した評価額と実勢価格の間にどの程度の開きがあれば、6項が示す「著しく不適当」な状態に当たるのかという線引きを示していない。

専修大の増田英敏教授(租税法)は「国税の通達に沿った財産評価を国税自ら否認するのは、納税者にとって理解しがたい」と指摘。

「不動産投資の萎縮など経済取引にも影響を及ぼしかねず、適用の基準を具体的に明示する必要がある」と強調している。