https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFE0451M0U1A101C2000000
これは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を連結した言葉で、先々の展開を予想するのが極めて難しく、あらかじめ精緻な計画を立てても、一つの「想定外」の発生によって、すべての前提が狂ってしまう混沌とした状況を指す。
そんな変化がいま、企業経営の現場でも起きつつある。
たとえば、トヨタ自動車のライバルが、日産自動車や米ゼネラル・モーターズ(GM)、独フォルクスワーゲン(VW)など同業他社だけだった時代は終わった。
自動運転の領域では、米アルファベットをはじめとするIT大手や、「電子の目」を提供するイスラエルのモービルアイ(2017年に米インテルに買収され、現在はインテル子会社)のようなテクノロジー企業が主役に躍り出るかもしれない。
どんな変化がVUCA時代をもたらしたのか。
一つは、「世界政治と世界経済の不安定化、流動化」である。
比較的平穏だった20世紀に比べ、21世紀に入ると、米同時テロやリーマン・ショック、英国の欧州連合(EU)離脱など、ほぼ途切れることなく予想外の事態が発生した。
その後は、新型コロナウイルスの感染が世界に広がり、米中2大国の対立が深刻化している。
2つ目は、私たち日本人が日々痛感している「自然災害の甚大化」である。21年の夏も日本では熱海の土石流被害が起こった。
そして3つ目が、「デジタル化とグリーン化を軸にした、極めて速度の速い技術革新」である。
米GAFAは巣ごもり需要などの追い風を受けて一段と強大化する一方で、古い企業の後退が顕著だ。
深掘りと探索を同時に行う――「両利きの経営」
そんな環境下では企業が成功を続ける秘訣は何だろうか。
1つ目のキーワードは「両利きの経営」だ。
米スタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授は「資金やブランド、多数の人材を有する大企業の生命力は強固と思われがちだが、それは錯覚だ」と述べ、「現実には、ある企業が有力企業として存続できる期間は平均的な米国人や日本人の寿命よりも短い」という。
企業のビジネス活動は次の2種類に大別できるという。
1つは、既存事業の「深掘り」だ。従来のビジネスに改良を重ね、コストを削り、販路を広げ、商品力や品質に磨きをかける。
加えて重要なのが、新たな事業機会の「探索」だ。
果敢に新機軸に挑戦する人材が求められる。
組織はフラットを旨とし、失敗の回避ではなく、やってみることを奨励する。
結果が出るのが何年先かわからず、それまでは赤字を出し続けることになる。
そんな不確実な状況にも平然と耐える胆力も欠かせない。
多様性を尊重し、革新を起こす「組織文化」に
2つ目のキーワードは、ピーター・ドラッカーの「文化は戦略に勝る」という言葉だ。
実践したのが、インド出身のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)率いる米マイクロソフトだ。
同社生え抜きのナデラ氏は14年2月に同社3代目のトップに就任するや、企業文化の変革に乗り出した。
「人間が成長するうえでempathy(エンパシー、他者への共感能力)ほど重要なものはない」という哲学の持ち主。エリート集団によくある、各社員をスタンドプレーに走らせがちな、過度に競争主義に傾斜した各種の制度を改革した。
働き手の活力や熱意を高める
3つ目のキーワードは、「エンゲージメント(仕事への熱意)」だ。
米グーグルは中間管理職の心得として、職場の「心理的安全性(サイコロジカル・セーフティー)」の確保を最重要課題に挙げている。
「多少の失敗があっても、自分はこの職場で尊重され続ける」「会議で少々ピント外れな発言をしても、それで同僚から嘲笑されたりすることはない」といった感覚だ。
この感覚がしっかり根付いていれば、社員は失敗を恐れず、新たなことに挑戦し、そこからイノベーションも生まれるだろう。
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