不動産投資は実物に妙味

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB21DNZ0R21C21A0000000

 

日本全国の3月上昇率はインフレ率を考慮した実質ベースで3.9%の上昇となっており、それ以降も加速している。

しかし、世界の住宅価格上昇は遥かに激しい。

米国では、21年6月末の前年比の実質上昇率は13.1%、OECD(経済協力開発機構)平均でも9.1%となっている。

日本の住宅価格の弱さの背景

なぜ日本の住宅価格上昇率は低いのか。

30年前の土地バブル崩壊のトラウマだろうか。

日本の人口減少を不安視する見方もある。

しかし、世帯数はまだ増加しており、一人当たりの居住面積も過去20年で32%も増加している。

考えられる要因の一つが実質金利だ。

日本の10年国債利回りは日銀のイールドカーブコントロールの恩恵を受け0~0.2%のレンジに維持されている。

しかし、消費者物価ではなく、住宅価格の上昇率を控除した"住宅価格調整後の実質"で見てみると、日本の長期金利は、マイナス圏ではあるものの、主要国中トップクラスの高さだ(図:住宅価格調整後"実質"金利)。

第二に、賃料の違いだ。

家賃と住宅価格には正の相関があるが、日本の家賃(所得対比)は世界有数の低さである(図表:世界各国の家賃vs住宅価格(所得対比))。

デフレももちろん関係しているが、それに加えて影響しているのが借地借家法である。

日本では、賃借人の権利が強く、事実上、入居者が入れ替わるタイミングでしか家賃は上げられない。

第三にテクノロジー浸透度合いの違いがある。

近年米国では不動産テックが花盛りだ。

時価総額で2兆円を超えるZillowやRedfinは、例えば物件推定価格の精緻化や、売買契約のオンライン化などで売買の効率化を促している。

もっとも、足元では、これらの状況に変化もみられる。

"住宅価格調整実質金利"は土地バブル末期の1990年以来の低水準になっており、更に低下傾向にある。

家賃についても、2015年以来一貫して緩やかながら上昇傾向が続いていることから、上昇が定着しつつある。

不安定なREIT

最も手軽で確立されている手法はREITだ。

金融所得税制が適用されるため、リターンへの税率は約20%と低い。売買手数料や管理費もごくわずかだ。

ただ、REITは、市場動向の影響を大きく受ける。

リーマンショック前の2007年から今年10月中旬までの約15年間で見ると、REITは、儲かるときは儲かるが、対象期間中半分近い7年間でマイナスだった(図表:住宅関連投資のトータルリターン)。

市場の動揺時には弱い。

一方、現物の賃貸物件投資は安定的だ。

家賃収入と価格変動率を合算したトータルリターンは、リーマンショック時ですらプラス圏で推移している(東京の中古物件の平均、各種経費差し引き後)。

空室リスクはあるが、都市部の駅近で家賃を適切に設定すれば案外懸念するほどではない。

地方はその限りでないが、その分は利回りに反映されている。

両者のネットリターンを比べると、過去15年間の平均でREITが3%、賃貸物件投資が6%と、現物に軍配が上がる。

住宅特化型のREITはこれより高い8%程度だが、シャープレシオ(平均トータルリターン÷リターンの標準偏差)で見ると賃貸物件の方が圧倒的に良い。

しかも、現物投資は、個人が長期でレバレッジを効かせることができるレアな資産である。

実物資産は万一ショックが発生しても安定的だ。

逆説的だが、海外の不動産市場が揺れている時こそ、日本の実物不動産のインカム投資は悪くないかもしれない。